「パラダイス山元の飛行機の乗り方」著者・パラダイス山元氏インタビュー
年末年始に向け、飛行機に乗る機会が増えてくる。「飛行機は時間が短縮できるから便利」「やっぱり長距離は飛行機」と、飛行機を「移動の手段」として捉えている人が大半だろう。「当たり前じゃないか」といわれるかもしれないが、同じ「移動の手段」であるはずの鉄道には「鉄道マニア」「鉄オタ」と呼ばれる「鉄道に乗ること」を楽しんでいる人々がいる。鉄道に乗ることは立派な「趣味」なのだ。「ならば、飛行機に乗ること自体を楽しんでもなんら不思議はない」というのが、パラダイス山元氏の持論だ。「そんなこと言っても、鉄道と飛行機じゃ…」と反論するなかれ。飛行機の中、空港、自宅ででも、さまざまなお楽しみが飛行機に乗るともたらされるのだ。
「幼い頃は大の鉄道好きだったんです。でも、他人と同じことをするのが大嫌いで。鉄道では宮脇俊三先生の『時刻表2万キロ』などが出ていて、鉄道に乗ることが趣味として認められています。じゃあ、飛行機ではどうかと調べてみたら、誰も『ただ飛行機に乗ることが趣味』と公言している人がいなかった。これは飛行機だろうと。1年365日だけど、年1000回以上乗ってみたり、1日10回以上乗ってみたりしたらすごいんじゃないかと思いついて。実際にやってみたら、これが楽しいんですよ」
飛行機に乗ることが目的なので、到着地で観光はしない。空港を出ずに、乗ってきた機体に再度乗りこんで出発地に戻ることも多々ある。「せっかく行ったのにもったいない」と思うかもしれないが、そんなことはない。
「乗った当日の夜や翌日に、マイルやポイントがどれだけ加算されているか確認するため、パソコンを眺めている時が至福ですね。あとはラウンジでサーバーから生ビールや青汁を注いで飲んでいる時、搭乗ゲートを通過するギリギリのタイミングでエコノミーからビジネスへアップグレードされる時、CAさんがちょっとしたことを覚えてくれていた時など、たまらないですね。飛行機の世界というのは皆平等の日本においては珍しくステイタスの世界なんです。乗客はダイヤモンドクラスを頂上としたピラミッドをかたどっています。しかし、同じ席であっても5000円で乗っている人もいれば、50000円で乗っている人もいる。そのロジックが分かってくると俄然面白くなります。なるべく安価にダイヤモンドクラスになる方法を考えて実行していますが、搭乗するからには費用がかかります。まったくお金のかからないホームから写真を撮っているだけの趣味に比べると、飛行機に乗るとはかくも“大人の趣味”だといえるでしょうね」
飛行機は早割運賃などを駆使すれば、通常よりはかなり安く乗ることができる。しかし、鉄道と違い数百円という訳にはいかない。確かに大人の趣味だ。飛行機に乗るために働くようなことにならないだろうか。
「最初に何十万円くらいの投資をしましたが、それ以降はせいぜい年間数十万円くらい。他の趣味とあまり変わらないんじゃないでしょうか。しかも、道具も何もいらないので、物が増えることがない!」
どういう乗り方をすれば、どんないいことがあるのか。それを知っておくことが大事だとパラダイス山元氏はいう。
「東京―沖縄2往復を9日間続ければダイヤモンドクラスになれます。全部を自腹で払うのがきつければ、会社の出張を入れてもいいでしょう。そのステイタスになって初めて受けられるサービスは、誰かの恩恵ではなく、自分で到達してこそ価値があります」
また、自分なりのレギュレーションを作って乗ることで、飛行機に乗ることがグンと楽しくなるという。
「例えば『名古屋への出張は必ず飛行機で行く。しかも直行便でなく、かならずどこかを経由する』と決めておくんです。一度飛行機で冒険をしてみることが、飛行機を楽しむきっかけとなります」
機内やラウンジでの楽しみ方、お薦めのルートなど、本書には「楽しい飛行機の乗り方」が書かれている。しかし、読み進めていくと、何事も視点次第で見え方が異なるのだということに気づく。「発想や視点でさまざまなことが楽しくなる。楽しめるかどうかは、自分次第」そういった自己啓発にも似た裏テーマがあるのでは?と考えてしまうのだ。
「本が出版された後に、どこの棚に並べられているのか書店へ見に行ったんです。大きな書店では飛行機関連の書棚に並んでいました。鉄道関連の書棚には先の宮脇先生の本はもちろん、青春18きっぷでの旅とか気軽な本がたくさんありましたが、飛行機関連の本はどれも内容が堅いんですね。全編、機内での感動話とか、ファーストクラスの客の品格がどうとか、妙な啓発ものばかり(笑)、私の本はめちゃくちゃ浮いてました。飛行機関連も、もっと気の抜けた本があってもいいと思うんですけどね」と、著者本人は笑っているが…。