大事なのは腹を割って話すこと
2005年から6シーズンにわたって清水エスパルスの監督を務めた長谷川健太氏は、2年の“充電期間”を経て、2013シーズン開幕前にガンバ大阪の監督に就任。クラブ史上初めてとなるJ2リーグ(2部)を戦う西の名門の再建を託されたが、11月17日にJ2リーグ優勝を達成し見事期待に応えてみせた。J2リーグの中では戦力に恵まれているガンバ大阪とはいえども、就任して即優勝の背景には、監督の卓抜とした指導力があったに違いない。一体どのようなことを意識してシーズンを戦ってきたのか。
「正直、難しさはあまりなかったですね。自分自身のサッカーは、清水エスパルス時代から変わらず『攻撃』の部分にこだわってやってきました。ガンバに足りないところは守備面だと思っていたので、攻守のバランスをどう取るのかがカギになる。選手たちも前向きに話を聞き、トレーニングにも取り組んでくれたので、そこまで難しい作業はなかったです」
これまでのキャリアで自身の指導論を確立してきた長谷川監督。その理論に自信があるからこそ、平然と「難しい作業はなかった」と言い切れるのだろう。もっとも、選手たちを一つにまとめるためには当然、指揮官なりのやり方で腐心していた。
「自分のサッカーには自信を持っていましたので、それをいかに選手に落とし込むのかという部分を考えました。もちろんミーティングなどでもそうですが、実際のトレーニングの中でどうやって落とし込んでいくのか。そこの部分を考えて取り組んできました。自分の考えを伝えていく熱意をどれだけ持って選手に接することができるか。この部分は非常に大事ですから、そういう思いを持って1年間戦ってきました」
自分の考えを選手に伝えていく。ここで指揮官として問われるのがコミュニケーション能力だ。長谷川監督は選手と絶妙な距離感を保ちながら、積極的に選手と対話を繰り返してきた。
「自分も選手をやっていたので、『自分がベテランの時に、こういう言われ方をしたらどう思うか』ということを常に考え、ベテランと若手を区別して接しています。ただ、大事なのは腹を割って話すこと。変に隠してしまうよりも、率直に自分の意見を言い、相手の考え方と擦り合わせていくという作業をしています」
“闘将”とも形容され、現役時代のプレースタイル同様に豪快なイメージを持たれることもある長谷川監督だが、実のところは非常に繊細な神経の持ち主である。指導者にとって最も重要と言える言葉については、「関西弁のニュアンスは、まだはっきりと分からない部分が多いのですが、どういう言い方がいいのか、大阪出身のスタッフに相談しながら選手に話すようにしています」という徹底ぶり。細心の注意を払った上で選手たちにアプローチしている。