本書の著者・井上和幸氏(経営者JP代用取締役社長)と曽和利光氏(人材研究所代表取締役社長)は共に、株式会社リクルート(現:リクルートホールディングス)で新卒をはじめとした採用を担当し、その経験を活かして現在は人材・組織のコンサルティング分野で経営者として活躍している。いわば「採用のプロ中のプロ」である2人が今回のテーマで本を出版したのは、新卒採用における“もったいないマッチングミス”があまりにも多いからだという。
待ちの態勢ではダメ、口説きに行くべし
もったいないマッチングミスとはどういう意味なのか。就職超氷河期といわれる昨今、採用が上手くいかないと嘆く企業が多くあると聞いてもいまいちピンとこない。実情はどうなっているのだろうか。
「大前提として、新卒採用をしようとする企業が成長企業であることが条件です。企業規模の大小は関係ありません。より成長したいと考えている企業は貪欲に採用活動をしますが、事業上の問題ではなく、人が採れないことで躓いている。現在の日本の経済状況で成長企業は貴重な存在です。良い人が採れれば順調に成長していくはずです」(曽和氏)
では、良い人とはどんな人材なのだろうか。有名大学であっても内定率が年々下がっているという話を聞く。成長企業であればどっと人が集まってきているのではないのか。
「トップ層の学生は、昔よりもむしろアクティブで、学生団体を結成したり、起業したりと学生時代の早い段階から社会にアプローチを行っています。このような学生は、就職で苦労することはないでしょう。しかし、能力はあってもキャリア自立ができていない学生には、ある程度のトップ企業を数社受けて受からなければ、そこで就職活動を終了して大学院へ進学するケースが増えています。このような人の中に、成長企業が必要としている人材が多くいるのです。うまくマッチングができていない。もったいないですよ」(曽和氏)
「企業側の意識の問題も大きいんですよ。学生側がいくらドアをノックしようとしても、企業側が既成概念に捉われていたり、元から諦めたり。伸び始めている会社や伸びている会社、または堅実に長年経営している会社であっても『うちは有名企業じゃないから、優秀な子を採れるわけないよ』と社長が頭から決めつけているんです。優秀な子を採用するには金がかかるし、うちには無理だと。しかし、会社を成長させるためには先取りでより優秀な人材を採らなければなりません。私たちはこんな採用を『分不相応な採用』と呼んでいます。分不相応な採用をするためには、お金を出して広告を打ち、学生が来てくれる待ち受け型ではダメなのです」(井上氏)
「下世話な言い方ですが、採用活動の現状は婚活の現状に似ている気がします。結婚相談所には、結婚したい男女がエントリーしていますよね。お互い結婚したい未婚男女ですからマッチングしてもいいのに、なかなかうまくいかない。男性のほうが草食などといって受け身になっていることが問題の一因だと思います。未婚率の高さと内定率の低さは問題構造が似ているんです。『俺みたない…』『うちみたいな…』と言っていないで口説きにいかないと」(曽和氏)
口説く…確かに本書の内容を読むと、かなり泥臭い採用手法が書かれてある。
「要はナンパしに行け!ってことですからね(笑)。スタートアップであっても、大企業であっても自分たちのブランドで集まる人以上の人材を採用しようとすると、泥臭いことをしないとダメなんです」(曽和氏)
譲れない条件を絞るべし
なるほど、ある程度決め打ちで口説きにいくというわけだ。しかし、その決め打ちする人材はどのように見極めればいいのだろうか。
「創業社長は特に、自らのビジネスを伸ばすために必要な人材は本能的にわかっているものです。形式化や言語化されているかは別として」(井上氏)
「マスト条件は絞ったほうが良いです。婚活の話でいうと、身長も年収も高いとなるとそもそもいません。条件を高くしたり、多くあげたりすると当然パイが減ります。マスト条件を絞るとは、本当に大事にするものは何かを決めることです。その大事な譲れない部分を備えた人材ならば、エネルギー量やポテンシャルで採用すればいいんです。2年後すら予測不可能な今のご時世だからこそ、ポテンシャル採用が必要だと思います」(曽和氏)
「例えば、同じ事業内容でも右の手法もあれば、左の手法もあって、その違いがそれぞれの会社の特徴となるわけです。そして、手法の選択はその会社の価値観によるんですよ。会社とは社長を筆頭とした社員たちの幻想が現実になっている場です。社長は現在の社員たちと共有している価値観に適応できる人材を採用しないといけません。ここが譲れない部分でしょうね。ただ、たんに従属する人ではなく、次代の起爆剤になり得る人である必要もあります」(井上氏)
「どの業界にでも共通して必要なマスト条件は学習能力だと思います。忘れる能力も含めた学習能力。この学習能力の基礎となるのは自己認知力です。しかし、自分で自分のことを分かるのは難しいので、いろいろな人からフィードバックを受ける経験をしてきたか、またそれを受け入れてきたかが大事だと思います。ツッコマビリティーとか言われますが、ある意味で隙がある人や、経験値の高い人は自己認知力が高く、チームワークや物事の認識能力も高いですね」(曽和氏)
「新卒に即戦力性を幻想的に求める傾向がありますが、それは問題です。もちろん新卒にも当座の仕事はできるようになってもらわないといけませんが、明日明後日のことではなく、会社の10年後、20年後を作っていく変革の担い手として育てなければいけません。でなければ、現状の改善を延長するだけで変革はできなくなってしまいます。『短期戦略と中長期戦略を理想的に追うことは現実問題として難しい』と、反論される社長もいるでしょうが、最低限、認識だけはしておかないといけないでしょうね」(井上氏)