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映画『夏の終り』 熊切和嘉監督

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熊切監督1レトロこみちにある「とらかめ舎」で。レトロな雰囲気がかなり似合ってます

不器用で、ずるくて、魅力的な3人が織りなす奇妙な三角関係

 今作のプロデューサーから渡され初めて原作を読んだという熊切氏、「文芸ものを撮るのは初めてなので、『できるのかな』という思いでページを開いたら、冒頭で知子が銭湯へ行くふりをして涼太(若い元恋人)へ会いに行くシーンから始まっていて、このシーンは撮りたいと思いました。強烈でパンチのあるヒロインで『やってみたい』と」
 常に作品選びについてはある一定の条件が自らの中にあるという。
「原作のあるものだと、書き手の視点に共感できるかが決め手です。(著者にとって)都合のいい人物の描かれ方だったり、偽善的であったりする作品は、自分には一切引っかからないですね。どこか不器用な人間が描かれていると、撮ってみたいと思います」
 
 主要登場人物は、染色家の相澤知子(満島ひかり)、かつて知子と駆け落ちした年下の元恋人・木下涼太(綾野剛)、知子の家で週の半分を過ごす妻子ある売れない小説家・小杉慎吾(小林薫)の3人だ。物語は慎吾と不倫ながらも穏やかな日々を過ごす知子の元に、涼太が再び現れ、2人の男の間で揺れ迷う知子の姿を描いている。
「3人とも不器用だったり、ずるかったりするんです。意外な三角関係というか、重くならないよう3人ともが魅力的に見えるよう意識しました」

不器用で、ずるくて、魅力的なキャストの3人はどのように決まったのだろうか。
「満島さんは原作の知子よりも実際は若いのですが、年齢不詳な顔立ちだし、妙に色気もあるのでハマるんじゃないかなと思いました。というか、実は個人的に以前から興味があって、いつか一緒に仕事がしてみたい女優さんでした。薫さんは2度目のお仕事ですが、すごく慎吾のイメージにあって最初から候補でした。綾野君はちょうどカーネーションに出演されている時期で、僕も観ていて『良いな』と思っていまして」

熊切監督3撮影現場近くにずっと滞在していた監督。近所の人ともすっかり顔なじみだ

感情を存在させることで描き出される”生々しさ”

 個性的なキャストを迎えての撮影は昨年6月に行われた。原作の設定が東京のため当初は関東圏での撮影を予定していたというが、「画作りとして昔の日本家屋の陰影をだしたかった」という熊切氏の希望から、最終的に淡路島、加古川などがロケ地に決定した。
 

 画作りのこだわりとしての陰影は建物だけでなく全体に活かされており、光と影のコントラストが全編を通して印象に残る。
「細かいことを言えば、現在のシーンと過去の回想シーンが入り混じるんですが、現在のシーンは少し色を抑え、過去は逆に鮮やかにしたりしました。全体的には、今まで比較的重めな映画を撮ることが多かったので、癖で画が重くなってしまう傾向があるのを理性で抑えました。3人は特殊な関係なのですが、特殊に見えないようにしたかったんです」
 確かに、三角関係を描いた物語ながらそれを描いた映画というイメージが映像からはしない。「重くならず、さっぱり、スパッと終わらすみたいなイメージでした。三角関係というより女の迷いを描いた映画です。3人を魅力的に描きつつも、知子というヒロインの映画にしたかったので、最後のカットも知子の顔で終わらせました。実際には少し先まで撮影していたのですが、最終的にはどこか答えを見る人に委ねるような終わらせ方になりましたね」
 重くならない工夫をしたとはいえ、重いシーンももちろんある。「涼太の部屋でのシーンは結構重たいシーンで時間もかかりましたね。いわゆるわかりやすいお芝居ではなく、感情としてその場にいてもらわなければならない。俳優がその感情になるまでに時間がかかったり、一瞬のことなのでテストで出てしまって、本番でその感情が出てこなくなったりしたので」

 芝居ではなく感情を存在させる。その演出方法が、原作者の寂聴がいう「生々しさ」を生んだのだろう。「生々しさ」は熊切監督が最もこだわった点だ。「時代ものは映画として作りこめる面白さがあります。世界観を作りこみつつも出てくる人物は生々しいという映画を撮ってみたかったんです」
 特に満島ひかり演じる知子はかなり生々しい。「映画を観ている人が『こう動いて欲しい』方向に動かない。映画の都合で動かないというか。そこがリアルにいる女性という感じがする部分だと思います。非常に子供っぽいところがある半面、染色家として自立している。染色のシーンは非常に丁寧に撮りました。あそこを上手く撮らないとただのダラシナイ女と思われかねない。満島さんとも『ここはちゃんと撮らないと誰も共感してくれないよね。勝手にしろよっていう女になっちゃう』と話していました」
 実際に出来上がった画には、一人で立つ美しい女が映し出されている。



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